来春の新入生を対象に福島大が新設した「理系教育女性人材育成枠」。今年初めて行われ、倍率3.5倍となった入試を経て8人が合格した。社会のバイアス(偏見や先入観)やロールモデル(模範)の少なさを背景に全国で理工系の女性学生割合の低さが課題になる中、県内の国公立大でも始まった「女性枠」設置の取り組みが、多様な人材の掘り起こしにつながるかが注目される。(渡辺美幸)
「放射線学び伝えたい」
「いろいろな分野を学び、放射線の正しい知識を伝えたり、地域を良くするための課題解決に貢献したりできる人になりたい」。合格者の一人、福島東高3年の阿部蒼空乃(そらの)さん(18)は将来を思い描く。
阿部さんが、女性枠が新設された同大の共生システム理工学類を志望したのは1年の時、同学類出身で担任教諭の女性との出会いがきっかけだった。科学のジョークを交えた分かりやすい授業やさまざまなアドバイスを受けるうち「先生と同じ学びやで学び、こういう人になりたい」と思うようになったという。
2年から理系クラスに進み、物理を選択。放射線を可視化できる装置を作る実験をしたり、東京電力福島第1原発に赴いたりする中で放射線分野への興味が高まっていった。
東日本大震災時は4歳で「外で遊べなかった記憶から『放射線=悪』のような印象があった」が、高校での学びを経て「正しい知識をきちんと学び、伝えていきたいという思いが芽生えた」という阿部さん。「道を切り開いてくれた」担任教諭のように「将来どんな職業に就いたとしても、自分の学んだことを生かし、人に影響を与えられるようになりたい」と願う。
社会進出、新モデルに
共生システム理工学類は設立から20年がたつが、現在の在学生712人のうち、女性の割合は22%(160人)にとどまる。同大は女性枠新設の狙いについて「理系分野の女性比率を高めるには、中高の理数教員など理系への女性進出が継続的に発揮されやすい場に人材が輩出されることや、ロールモデルを増やすことが重要だ」と説明する。
県内では、若年女性の流出を背景に人口減が進み、特に大学進学を機に県外に出たまま戻ってこないケースも多い。地元で学びたいという学生に対し、大学進学時の選択肢を広げて新たなロールモデルを生み出す環境が根付けば、若年女性の県内定着にもつながり得る。
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日本の理系の女性学生の割合 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本は大学など高等教育機関の理系の女性学生の割合(2021年時点)が加盟38カ国中で最下位。一方、各国の15歳を対象にした学習到達度調査では、日本の女子生徒の「数学的リテラシー(知識や判断力)」や「科学的リテラシー」の平均点は高い。こうした背景から、全国の大学で「女性枠」の設置が進んでいる。半面、入試制度に性別枠を設けることは女性の能力への差別や男性差別になりかねない、といった指摘もある。