遺族「真実が知りたい」 東電強制起訴控訴審あす判決

2023/01/17 08:45

控訴審で読み上げられた意見陳述の原本を手にする女性。判決を現地で傍聴する予定はない

 東京電力福島第1原発事故を巡り、東京高裁で18日に開かれる東電旧経営陣3人の控訴審判決。原発事故に伴う避難が原因で両親などを失った遺族たちの判決への期待は「現場検証も採用されず、(遺族が求める判決は)厳しいかも」「民事では東電の責任が認められていて希望はある」などとさまざまだ。「真実が知りたい」という共通の強い思いを持つ遺族たちは、それぞれの立場で再び示される司法判断の時を待つ。

 「傍聴するまでもないんだろうな」

 大熊町から双葉郡内に避難して生活する女性(70)は判決に悲観的だ。被害者参加制度を利用し、控訴審を初公判から結審まで3回傍聴したが、現場検証が不採用となるなどの審理状況から、遺族にとって厳しい判断が下される可能性が高いと考えている。判決を傍聴する予定はない。

 女性は双葉病院系列の介護老人保健施設に入所していた両親を避難中に亡くした。両親が亡くなった理由、被告3人の本当の心情が知りたいという一心で、長男(42)と一審も含めて20回以上傍聴してきた。

 昨年6月の公判で女性の意見陳述が法廷で読まれた。「裁判は津波のことばかりで、避難が遅れてなぜ死者が出たのかという遺族が本当に知りたいことは分からなかった。私のわだかまりは、死者が出たことの結果責任は誰にあるのか分からないことです」

 女性が知りたかったことは、まだ何一つ明らかになっていない。

 「無念な思い」背負う

 双葉病院に入院していた父健蔵さん=当時(99)=を亡くし、大熊町から水戸市に避難した菅野正克さん(78)は、旧経営陣3人に対し一審とは異なる判断が出されると期待している。「裁判長には3人の過失をしっかり指摘し、後世に恥じぬ判決を出してほしい」と力を込める。

 裁判の対象となる被害者は事故後3カ月以内の死亡者で、1日過ぎた健蔵さんは含まれない。「対象の44人の被害者以外にも他の病院などで亡くなっている人がいる。多くの人が無念な思いをしている」。菅野さんは健蔵さんや声を上げることのできない被害者の思いを背負う気持ちで、事故の真相が解明されることを願って裁判を見守り続けてきた。

 「12年間、当事者の思いは放置されたまま。事故の責任は誰にあるのか」。18日、判決を傍聴席で見届けるつもりだ。

 長期評価の信頼性焦点

 福島大行政政策学類の高橋有紀准教授(刑法)に、判決で注目されるポイントなどを聞いた。

 ―控訴審を振り返って。
 「3回の公判で結審した控訴審が、一審判決を抜本的に見直そうという方向だとは思わない。しかし、一審判決後の民事訴訟の判決などでは、国の地震予測『長期評価』の信頼性を認めた上で予見可能性を認める判決が出ている。一審判決で否定された長期評価の信頼性について、ほかの民事訴訟判決の判断との整合性の観点から見直す可能性はあると考える」

 ―検察官役の指定弁護士が求めた現場検証や証人尋問は認められなかった。
 「長期評価の信頼性について、証拠採用された書面で十分判断できるとする考え方は法律論としては問題ない。ただ個人的には、(書面だけではなく)現場検証などあらゆる証拠を調べ尽くした上で判決を出すという判断をした方が良かったのではないかと思う」

 ―判決の注目ポイントは。
 「長期評価の信頼性が認められ、その上で過失犯が成立するほどの対策の不備が問われるかどうかが焦点だ。長期評価の信頼性などについて、一審の時より深く検討した判断が示されるのではないか」

 民事訴訟でも分かれる評価

 強制起訴の控訴審が結審した昨年6月以降、原発事故の避難者らが国や東京電力に損害賠償などを求めた集団訴訟や、東電の株主が旧経営陣に対し会社に損害賠償を支払うよう求めた株主代表訴訟など、民事訴訟の判決が相次いで出された。これらの判決では、強制起訴の一審判決で信頼性が否定された国の地震予測「長期評価」に対する評価が分かれている。

 原発事故以降、全国で30件以上起こされている集団訴訟を巡る昨年6月の最高裁判決は、長期評価の信頼性については言及せず「仮に津波対策をしていたとしても事故を防げなかった」と結論付けた。一方、同7月の株主代表訴訟の判決で東京地裁は、長期評価の信頼性を認定。「津波は予見可能で津波による重大事故を避けられた可能性があった」とし、勝俣恒久元会長ら3人を含む4人の旧経営陣に約13兆円の支払いを命じた。

 強制起訴の控訴審で検察官役の指定弁護士は結審後、株主代表訴訟の判決文を証拠採用するよう申請したが、採用されなかった。ただ、被害者遺族代理人によると、高裁は「先例調査(の対象)として検討する」などと話したという。

 強制起訴の控訴審とこれら民事訴訟とでは争点が重なる部分も多く、民事訴訟の判決が控訴審判決に影響を与えるかどうか、注目が集まる。

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