働く女性を中心に不利益が生じている実態を見過ごすことはできない。国会は重く受け止め、議論を急ぐ必要がある。
結婚後も希望すれば夫婦がそれぞれの姓を戸籍上の姓として名乗ることができる「選択的夫婦別姓制度」について、経団連が先月、早期実現を求める提言を初めて発表した。十倉雅和会長は記者会見で「世の中は大きく変わっている。国会でスピーディーに議論してほしい」と述べた。
夫婦は婚姻時にどちらかの姓を選べるものの、現状は妻が改姓するのが圧倒的に多い。しかし結婚後も働く女性が増え、多くの人が旧姓を通称として利用している。
経団連によると、通称では契約書にサインできなかったり、海外渡航時の宿泊の際にトラブルになったりしているという。夫婦同姓を義務づけている国は世界的に日本だけで、海外では通称使用を理解されにくいことが背景にある。
国際的な視点で「ビジネス上のリスクとなり得る」と訴えた経団連の今回の提言は、現実的で重要な指摘だろう。
選択的夫婦別姓を巡っては1996年、法相の諮問機関、法制審議会が導入を認める民法改正を答申した。法務省は同年と2010年に改正案を準備したが、当時の与党内で足並みがそろわず国会提出に至らなかった。「家族の一体感が失われる」などとして、特に自民党の保守系議員を中心に反対意見が根強い。
夫婦別姓を認めていない民法の規定について、最高裁は15年と21年に「合憲」との判断を示したこともあり、国会での議論が滞っている。しかし現在は与党の公明党を含め、自民以外の主要政党はすべて導入に賛成している。
自民内でも賛成派の議員が少なくない。2年前の参院選政策集には夫婦同姓について「不利益に関する国民の声や時代の変化を受け止め、不利益をさらに解消する」としていた。導入の是非を議論することを含め、不利益解消に取り組むのは与党の責務だ。
国による結婚に関する国民意識調査では、積極的に結婚を望んでいないとする20~30代独身女性のうち、2割強が「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」を理由に挙げた。国が直面している少子化の背景にある未婚や晩婚化の要因の一つなのは間違いない。
夫婦が別々の姓になった場合、子どもの姓をどうするかなどの問題はある。ただ海外では自由に選択できるケースが多い。利点や課題を示し、国民の議論を喚起することも国会の重要な役割だ。