“LUUP”が観光客の二次交通の一助となるか? 公共交通が衰退する「地方の移動問題」に取り組む

2024/06/26 10:31

  • 経済・トレンド
電動マイクロモビリティが「地方の移動問題」の一助に(写真:京都府舞鶴市、提供:ウッディーハウス)

 電動マイクロモビリティのシェアサービスを展開するLuupが、地方や団体が抱える移動課題に貢献する新たなサービス「LUUP for Community」の提供開始を発表した。人口減少に伴い公共交通が衰退しつつある地方では、地元住民や観光客の移動にさまざまな課題が起きており、地域経済の疲弊の一因ともなっている。かたや都市部では昨年7月の道路交通法改正以来、一部のルール違反者により電動キックボードに厳しい目が向けられている。その矛先を向けられることも多いLUUPだが、地方の移動課題にどのように向き合うのか? 併せてLUUPを試験導入した福井県・おおい町にも話を聞いた。

【画像】田んぼの真ん中や水の中まで!? LUUPで移動がアクティビティに

■観光地あるある「徒歩では遠く、車では近すぎる」移動と深刻な地方の2024年問題

 若狭湾に面した福井県・おおい町は人口8000人程度とコンパクトながら、海・山・史跡といったスポットの点在する風光明媚な町だ。2022年には複合商業施設「SEE SEA PARK」がオープンし、観光客はもとより地元住民にも人気となっている。

 今年5月からは「SEE SEA PARK」を含む観光スポットが集積した「うみんぴあ大飯エリア」を中心に、電動マイクロモビリティのシェアサービス「LUUP」の提供が始まった。同町では昨年7月~今年2月にも実証実験の形で同サービスを導入しており、その成果を受けて再導入した形だ。

「うみんぴあ大飯エリアにはホテルやマリーナ、道の駅など“徒歩では遠く、クルマ移動には近すぎる”スポットが点在しています。そのため施設間の人流を活性化させるのが難しく、機会損失をしているスポットもありました。また今年3月には北陸新幹線が敦賀駅に伸長し、JR線で当町を訪れた観光客の二次交通(※1)の確保も課題の1つでした。さらに多くの地方自治体さんと同様に2024年問題(※2)にも直面しており、地域住民にも十分な公共交通を提供できているとは言えません」(おおい町観光課・常木尊也さん)

 Luupでは、主に人口の多い都市部で電動マイクロモビリティ(電動キックボード、電動アシスト自転車)のシェアサービスを展開してきたが、事業を通して全国の地方自治体から「地域住民に自家用車以外の移動手段がない」「公共交通手段が少なく、思うように観光客を集められない」といった移動課題の声とともに、LUUP導入の問い合わせが多く寄せられてきたという。

「6月より本格提供が始まった『LUUP for Community』は、地方が抱える移動課題解決を支援するサービスです。本格提供に先立ち、道路交通法が改正された昨年7月より全国21ヵ所の移動課題を抱えた自治体や団体で、小規模な実証実験を行なってきました。おおい町さんもその一例です。その結果、『観光エリア内の周遊性が高まった』『地元住民の移動困難が改善された』『従業員の施設内移動が便利になった』などのお声を頂き、一定の寄与ができる手応えを得られたことから、本格提供の開始に至りました」(Luup「LUUP for Community」サービス担当 鈴木尉大さん)

※1/駅等から目的地に行くまでの交通手段
※2/自動車運転業務の労働上限規制に伴うバス・タクシーなどのドライバー不足

■都市部では批判対象にも…一方、地方の非ユーザーはLUUPをどう見ているか?

 昨年7月の改正道路交通法により、都市部でたちまち普及した電動キックボード。しかし一部のマナー違反者によって、交通安全が脅かされているとの批判もあり、その“流れ弾”を受けるようにLUUPに対しても厳しい目が向けられることもある。

 「LUUP for Community」のポート(停車所)が設置されるのは、地域の施設や観光スポット、ホテルなどある程度限定されたエリア内であり、無数にポートのある都市部のようなユーザー/非ユーザー間の軋轢は起きにくいかもしれない。それでも地域の暮らしを守るための交通安全対策は必須だ。おおい町では「これまで特にトラブルはない」とのことだが、どのような対策を行なってきたのだろうか。

「利用登録に際して『LUUPアプリの交通ルールテストを全問連続正解する』といったレギュレーションは、都市部と同じです。また導入前には試乗会と交通安全講習会を実施しました。加えて、当町では設置場所でヘルメットの貸し出しをしており、雪の日には利用を停止するなど、状況に応じた対応もしています。

 ただ大前提として、当町の提供エリアは道幅が広く道路もシンプルです。クルマ社会とはいえ都市部に比べたら交通量も少なく、混雑するのは通勤時間帯くらい。ちなみに昨年度の実証実験では、うみんぴあの施設の営業時間内に利用されることがほとんどで、通勤ラッシュとバッティングすることもありませんでした。総じて感じるのは、都市部よりも地方のほうが電動キックボードや自転車もゆとりを持って走れるのではないでしょうか」(常木さん)

 Luupによると、ポートを設置する場所は、要請エリアのニーズに添いつつ、現地の警察から交通事情などのアドバイスを仰ぎながら決めていっているとのことだ。観光客が利用のメインであると思われていたが、うれしい誤算もあった。

「実証実験では走行しやすいルートと観光スポットを組み合わせた“おすすめルートマップ”を配布する自治体もありましたが、これは1つには地元住民の生活圏を守る取り組みにもなったと思います。

 昨今、オーバーツーリズムを起こしている観光地で地域住民の“足”が奪われているとの指摘もありますが、この問題も移動手段の選択肢を広げることで一部改善されるのではないかと思います。たとえば路線バスは地元住民が主に利用し、観光客はLUUPで移動するといった棲み分けができれば、地域住民と観光客が上手に共存できるのではないでしょうか」(Luup 鈴木さん)

■地方こそ限られた交通機関を高齢者が利用できる施策を…若い世代に移動の選択肢を提供することで解消できる

 「LUUP for Community」は移動課題を抱えた自治体だけでなく、広大な敷地が広がるレジャー施設などにも提供されている。

「カートの貸出や周遊バスの運行などを行なっているレジャー施設もありますが、友人同士やカップルなど少人数グループには『自由に移動できるLUUPが向いている』とのリアクションをいただいています。貸出カートはファミリーに、周遊バスはゆったり過ごしたい高齢者にと、観光客同士でも移動の選択肢が広がれば、より多くの方が施設を楽しんでいただけるのではないかと思います」(Luup 鈴木さん)

 さまざまな意見はあれど、風を受けて走る電動キックボードや電動アシスト自転車は爽快だ。風光明媚な観光地ならばなおのこと、単なる移動がアクティビティになるのも「LUUP for Community」の導入効果と言えるだろう。

「昨年の実証実験では、海岸線を走るのが気持ちよかったという反響を多くいただきました。地域住民からもおおむね好評だったことから、今年5月の再導入では田園方面まで提供エリアを少し広げています。カルガモが小ガモを連れて歩いている風景など、クルマ移動では見過ごしてしまうような当町の魅力を、たくさんの方に楽しんでいただきたいです」(おおい町 常木さん)

 提供エリアを広げることで今後は想定外の課題も出てくるかもしれないが「そのたびにしっかりと向き合い、対処したい」と常木さん。現状は観光客の利用が多いが、ゆくゆくは“地元の足”としての定着を目指している。

「昨年の試乗会では、ボランティア参加してくれた地元の高校生たちがとてもイキイキしていたのが印象に残っています。やはり若い方ほど馴染みやすい乗り物なのでしょう『話題の電動キックボードに乗ってみたかった』と言っていた子もいましたね」(おおい町 常木さん)

 一方で、地方が抱える移動課題には“高齢者の免許返納”も大きく関係している。

「足腰の弱い方に電動キックボードは必ずしも推奨できません。公共交通が衰退している地方こそ、限られたバスやタクシーを高齢者がきちんと利用できるように、若い世代に移動の選択肢を提供する必要があると思いますし、『LUUP for Community』もその一助になりたいと考えています。加えて弊社では、高齢者も利用しやすい3輪〜4輪の新しい形の電動マイクロモビリティの研究開発も行なっているところです」(Luup 鈴木さん)

 電動キックボードばかりが取り沙汰される同社だが、目指しているのは「誰もが移動に困らない社会を実現すること」。その意義は、公共交通の脆弱な地方ほど発揮されるかもしれない。自由な移動は経済活性にも繋がるだけに利用者1人1人がしっかり安全意識を持ち、このサービスが地域社会にポジティブな影響を与えることに期待したい。

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