「お互いさま」海を渡る 福島発、誰かの食事・サービス先払いチケット

12/01 08:00

飲食店内に掲示されたお互いさまチケット。購入者からのメッセージが添えられている=福島市
お互いさまチケットを始めた故吉成さん(中央)と普及活動に取り組む半田さん(右)(NPO法人チームふくしま提供)

 県内で始まった「困っている誰かのために」という取り組みが、国内外に広がっている。NPO法人チームふくしま(福島市)が発案し、開始から5年近くが経過した「お互いさまチケット」が全国20カ所以上で導入され、地震被害からの復興に取り組む台湾にも波及した。今は亡き発案者の思いは、困難に直面する人の希望の光になっている。

 「たくさん食べて幸せな気分になって」「今日も元気に頑張ろう」―。福島市の飲食店「HAPPY HAPPY CURRY」には、購入者のメッセージが添えられたお互いさまチケットが掲示されている。「互いの顔が見えないからこそ、気軽に利用できると思う」と店長の菅野舞子さん(34)。チケットのことを知り、県外から訪れる人もいる。

 苦しむ子どものため

 お互いさまチケットは同法人の副理事長を務めた故吉成洋拍(ひろはく)さんが発案した。きっかけは東日本大震災からの復興や障害者雇用などに取り組む中、知り合いから「福島には苦しい思いや貧しい思いをしている子どもがたくさんいる」と言われ、現状を見つめ直したことだ。吉成さんは映画「ペイ・フォワード」を参考に、独自の恩送りシステムを考案。2019年に「お互いさまの街ふくしま」を掲げ、自らが経営する福島市の飲食店でチケット制度を始めた。

 吉成さんは市内100カ所に広げることを目標にしたが、志半ばの21年5月に49歳で亡くなった。「彼の思いを形にしたい」。吉成さんの遺志を継ぎ、同法人理事長の半田真仁さん(46)を中心とする同志がチケットを普及させようと国内外で講演会や研修会を開き、導入店舗は瞬く間に広がった。

 「台湾復興の希望に」

 半田さんらの協力で、今年9月には日本人が経営する台湾の飲食店でも利用がスタートした。同4月に発生した台湾東部沖を震源とする大地震に見舞われた台湾。「震災を経験した福島の取り組みが、台湾復興の希望になるのではないか」。現地にいる日本人からの依頼を受け、半田さんたちが導入をサポートし、現在では多くの人がチケットを購入しているという。

 「福島を『同情』の街から『尊敬』の街にしたい」。生前、吉成さんが話していた思いだ。その思いを受け継ぎ、取り組みを続ける半田さんは最近、ある変化を感じている。「震災で大きな被害を受けた福島には同情の目が向けられた。しかし今は福島の活動を見習おうと、県外から多くの人が足を運んでいる。吉成さんの思いを実現するため、さらに取り組みを広げられるようにしていきたい」。一人の思いから始まった善意の活動が、国内外を明るく照らしていく。(江藤すず)

          ◇

 お互いさまチケット 飲食代金などを本人ではない別の誰かが先払いするシステム。来店者が専用のチケットを購入して店舗に掲示し、その金額分を別の誰かが利用できる。店舗は飲食店や美容室などさまざまで、チケットの種類は店によって違う。

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