今回も脳卒中後の合併症の一つの肺炎、とりわけ最も重要で死亡にも繋がりかねない誤嚥性肺炎を中心にお話しします。
1.誤嚥性肺炎の診断
前回もお話したように、誤嚥性肺炎になると咳や痰が多くなり、発熱、呼吸困難、胸痛、低酸素血症などの症状が出ます。肺には、体の中に酸素を入れて、二酸化炭素を排出する役割がありますが、その機能が障害されると体内の酸素濃度が低下します。そのため、単に肺の症状だけではなく、全身がだるくなる、元気がなくなる、意識がぼんやりする、食欲が低下するなどの症状が出ることもあります。診断はこれらの症状に加えて、胸部のレントゲン写真やCT、血液検査、喀痰培養検査などによります。
2.嚥下機能の診断
誤嚥の原因となる嚥下機能の障害については、まず、水飲みテストを行います。水を3㏄、あるいは5㏄飲んでもらい、むせることがないかどうかを観察します。もし、むせることがあった場合には、水にとろみをつけて同様に飲んでもらい、上手に飲めるかを観察するものです。これはベッドサイドで医師、言語聴覚士、看護師などが簡単に行えます。
より専門的には、レントゲンを使用して造影剤の入った水や食べ物を飲んでもらい、嚥下の際に食塊がうまく咽頭から食道へ通過するか、喉頭(気道)へ入り込まないかを観察するビデオ嚥下造影検査(VF)や鼻腔から細い内視鏡カメラ(ファイバースコープ)を挿入して咽頭、喉頭を観察し、食塊や唾液が貯留していたり、喉頭へ流れ込んだりしていないかなど見る嚥下内視鏡検査(VE)を行います。
これらの検査は主に耳鼻科医や歯科医、口腔外科医などが行います。もし、誤嚥徴候があれば、誤嚥性肺炎を発症する危険性があるため、言語聴覚士が看護師、栄養士と相談しながら食形態を変更したり、リハビリテーションを行ったりします。誤嚥性肺炎の危険因子を図(左ページ)に示しました。この中ではやはり脳卒中の既往、高齢者の因子が重要になります。
3.誤嚥性肺炎の治療
誤嚥性肺炎の治療は、感染の重症度と原因に応じて多岐にわたります。
・抗生物質治療
抗生物質は、誤嚥性肺炎の治療の基本です。病原菌が不明な時期は広域の病原菌に有効な抗生物質が選択され、具体的な病原菌が特定されれば適切な抗生物質を使用することになります。通常は点滴で投与します。
・酸素療法
酸素療法は、血中の酸素濃度が低下している人に対して行われ、酸素の補充を十分に行います。重症の場合、人工呼吸器などの機械的換気が必要になることもあります。体内の酸素濃度が低い状態が持続すると、脳、心臓など重要臓器の障害が出ますし、肺炎そのものの悪化にもつながりますので酸素の投与は重要です。
・ステロイド療法
副腎皮質ステロイドは、気道の炎症を軽減するために使用されることがあります。ただし、副腎皮質ステロイドの使用は感染リスクを高める可能性があるため、慎重に評価される必要があります。
・外科的介入
まれですが、誤嚥性肺炎の原因が胃食道逆流症などの解剖学的な問題にある場合、外科的介入が推奨されることがあります。また、気道と食道を分離して誤嚥を確実に防止できる手術があります。これにより、誤嚥のリスクを根本的に解決することができますが、声を失うというデメリットがあります。
・リハビリテーション
嚥下機能を保持、回復させるためにリハビリテーションを行います。リハビリテーションについては、過去の連載「脳卒中について。その13」(2019年7月号)で詳しく述べましたので、ご参照ください。
呼吸リハビリテーションも重要です。深呼吸を繰り返したり、痰を積極的に体の外へ出したりするトレーニングも有用です。
・予防
脳卒中後で嚥下障害がある方の誤嚥性肺炎を完全に予防する方法が確立されているわけではありませんが、一つは嚥下する際の正しい姿勢があります。体幹を起こして、首を前屈させる姿勢が重要です。時には顔を真横にして嚥下することもあります。また、睡眠中に誤嚥をしてしまう不顕性(気管の中に唾液が入ってしまっても、咳など防御の仕組みが働かない)の誤嚥からの肺炎を予防するために、食前後の口腔内、咽頭内の十分な衛生ケアが重要とされています。
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次回は脳卒中後の介護についてお話しします。