福島県やJA全農福島、福島大、地元の畜産農家が2021年度から開発を進めてきた、県産の酒粕(かす)を与えて育てた新たなブランド牛が9日、デビューの日を迎える。名称は「福島牛『福粕花(ふくはっか)』」。日本酒王国としてのブランド力を生かし、風評被害に苦しむ本県畜産業再生の一手になるか。県は関係機関と連携し、福島牛の評価を高める新たなけん引役として認知度向上と消費拡大を図る。
脂に極上の甘み
福粕花は出荷前の90日間、1日当たり約100グラムの酒粕を乾燥させたパウダーを餌に加えて肥育し、肉質等級が最高級の「5等級」の牛のみが名乗ることができる。県などは21年度から実証試験に乗り出し、同量の酒粕を60日間と90日間与えた場合の特徴を分析するなどし、約4年かけて独自の肥育技術を確立させた。肉質はやわらかくジューシーで、脂の強い甘みが特徴だ。県農業総合センター畜産研究所や福島大の調査では、酒粕を与えることでうまみ成分の「イノシン酸」が多く、甘みが強くなることも明らかになった。
本年度は県内の畜産農家6軒が237頭に酒粕を与え、そのうち6割程度の約140頭が5等級になる見込み。県内の量販店やレストラン、旅館など約10カ所で販売し、県内での認知度向上や消費拡大を図る。28年度には約500頭まで拡大させる計画だ。
本県の畜産業は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故以降、風評の影響が続いている。東京都中央卸売市場の県産和牛の枝肉価格は【グラフ】の通り。震災後、本県産の枝肉価格は1キロ当たり1115円まで低下し、全国平均との差が拡大。その後、15年度にかけて全国平均との価格差が縮まる傾向は見られたものの、現在も全国平均を1割程度下回る状況で推移している。県は新ブランド牛の発信を通じて福島牛に新たな付加価値を持たせ、価格向上と風評払拭への追い風にしたい考えだ。
県は、年度内に生産技術をまとめたマニュアルを作り、県内の生産者に対して福粕花の特徴や生産方法を周知し、生産者団体と連携して生産者数の拡大や品質の安定化を進める。将来的には全国への販路拡大を目指す。県によると、富山県でも同様に酒粕を与えたブランド牛「とやま和牛 酒粕育ち」が販売されているという。
ただ、県産米のトップブランドとしてデビュー4年目を迎えた「福、笑い」は県内外での認知度などが課題となっており、福粕花も魅力をどう発信していくかが問われそうだ。2日の定例記者会見で福粕花のデビューを発表した内堀雅雄知事は「皆さんと力を合わせながら認知度向上と販売促進に取り組む」と述べた。
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福粕花 出荷前の90日間、1頭当たり1日約100グラムの県産酒粕を乾燥させたパウダーを餌に加えて育てた福島牛で、肉質等級が最高級の「5等級」のもの。酒粕を加熱して与えているため、牛肉にアルコールが含まれる心配はなく、年代を問わず安心して食べることができる。福島牛は、県内で飼育・生産された黒毛和牛のうち、肉質等級が「2等級」以上のものを指す。