【12月7日付社説】年金制度改革/場当たりの対応で終わるな

2024/12/07 08:10

 老後の生活を支える公的年金制度の見直しは、現役世代の将来を左右する。少子高齢社会に耐え得る仕組みを構築してもらいたい。

 厚生労働省は、全ての国民が受け取る基礎年金(国民年金)について給付水準の底上げを検討している。基礎年金の財政状況が厳しく、将来的に現行の給付水準を維持できなくなるからだ。

 基礎年金だけを受給する自営業者やパート従業員、現役時代の賃金が少なく、年金全体に占める基礎年金の割合が大きい人にとって支給額の目減りは痛手になる。老後の生活そのものを揺るがすだけに、最低限必要な支給額を維持するための見直しは必至だ。

 厚労省は、会社員らが加入し、財政的に余裕のある厚生年金の積立金(余剰金)の一部を基礎年金に充当し、支給額を引き上げる方針だ。これで2036年度以降の給付水準は、現在の見通しより3割程度底上げできるという。

 しかし試算によると、積立金が減る影響で、厚生年金の給付水準は当面低下するため、保険料を負担している会社員、企業の反発が懸念されている。厚労省は基礎年金の底上げに伴い、厚生年金受給者の大半も年金全体の給付水準は手厚くなると説明している。

 基礎年金の財源の半分は国庫(税)で賄われており、増税につながる恐れもある。政府は年金の給付水準がどのように推移するのか、具体的な金額を明確に示して議論すべきだ。

 働く高齢者の厚生年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」の適用基準額の引き上げも検討されている。現在は賃金と年金の合計額が月50万円を超えた場合、超過分の年金が減額されるため、基準額内に賃金を抑える人がいる。こうした「働き控え」を解消し、人手不足の是正につなげる狙いだ。

 しかし、月62万円に引き上げた場合、満額の受給者は約20万人、支給額は約1600億円増える。高所得の会社員が支払う厚生年金保険料の上限を引き上げるなどして財源を確保するという。

 年金制度は、現役世代が納める保険料などを、その時の高齢者に支給する「仕送り方式」で成り立つ。少子化で現役世代が減り続けるなか、高齢者への支給額がさらに増えて年金財政が破綻し、現役世代が将来、必要な年金を受け取れなくなる事態は許されない。

 政府はこれまで、パートら短時間労働者の厚生年金への加入拡大や、国民年金保険料の納付期間の延長などを検討してきた。こうした年金財政の安定につながる改革についても議論する必要がある。

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